大人のワクチンシリーズ
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予防接種(ワクチン)は子どもだけのものではありません。大人にもワクチンで予防しておくべき病気(VPD)があります。
VPDの会の「大人のVPD」のページには、それぞれのワクチンの役割やスケジュールについて詳しく記載されています。
是非一度ご覧ください。
子どもだけじゃない!大人が受けておきたいワクチン(第8回目)
髄膜炎菌ワクチン
<髄膜炎菌ワクチンは侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD:Invasive meningococcal disease)を予防するワクチンです>
髄膜炎には細菌性髄膜炎(現在定期予防接種に含まれるヒブや肺炎球菌)と無菌性髄膜炎(おたふくかぜなどのウイルスなどによるもの)があります。
その中で細菌性髄膜炎の原因となる菌のひとつに髄膜炎菌があります。
髄膜炎菌が血液や髄液に侵入すると敗血症や髄膜炎を引き起こします(これを侵襲性髄膜炎菌感染症:IMD:invasive meningococcal
diseaseと呼びます)が、最初は発熱や頭痛など一般的な風邪症状と変わりはありません。
そのため早期に診断を行うことは難しいのですが、急速に症状が進行し、発症してから24~48時間で死亡してしまう恐れがあります。また、死亡しなかった場合も難聴や神経障害、場合によっては四肢を切断するなど後遺症が残ることも多いです。
第二次世界大戦後の日本では年間数千人の髄膜炎菌性髄膜炎がありましたが、その後は減少し。現在は年間20人未満の発症となっています。
世界的にはアフリカの中央部は髄膜炎ベルトと呼ばれ、多い年は年間数万人の発症が報告されています。
また、アメリカでは年間1000人前後の髄膜炎菌性髄膜炎が報告されています。
発症する年齢としては乳幼児と15歳~24歳が世界的にも多く認められており、アメリカでの調査では、寮生活や軍隊などの集団生活を送っている場合の感染リスクは2~4倍となっております。
そのためアメリカでは感染リスクの高くなる10代後半から20代の感染予防のため、11~12歳で1回、さらに16歳でもう1回、定期接種となっております。
日本からアメリカへ留学する場合にも(州や寮生活の有無によっても異なりますが)髄膜炎菌ワクチンの接種を求められる場合が多くなっています。
日本でも2011年に宮崎県の高校男子寮で集団発生があり、1名の生徒が死亡しています。
高額なワクチンであり、すべての人が積極的に接種するのは難しいですが、次の項目に当てはまる方は接種が推奨されます。
・相撲部屋、高校、大学などで集団生活、寮生活を送る学生
・アメリカなどへ留学する
・アフリカの髄膜炎ベルト地帯へ行く
・イスラム教のメッカ巡礼でサウジアラビアへ渡航する場合は接種が義務づけられています
*現在、警視庁の警察学校に入校する方は入学前に髄膜炎菌ワクチンを接種することが義務づけられています。
*一部の自衛隊隊員についても接種が推奨されています。
接種方法:1回0.5mlを筋肉内注射
接種年齢:2~55歳に1回接種。筋肉内接種です。
(2歳~6歳で接種した場合は3年後に1回追加接種を推奨、7歳以上で接種した場合は、5年後に1回追加接種を推奨。)
副反応:局所の疼痛、発赤、頭痛、疲労が報告されています。アナフィラキシー様症状などの全身性の副反応は稀です。
料金:1回22,000円
(2022年8月8日)
子どもだけじゃない!大人が受けておきたいワクチン(第7回目)
現在、新型コロナウイルスのワクチンに注目が集まっていますが、実は、それ以外にも大人が受けておきたいワクチンというのがあります。
子どもさんだけでなく、海外渡航や新入学・入寮、また災害ボランティアへ行く方や園芸を趣味とされている方、シニアの方に、ご案内したいワクチンがあります。これらワクチンについて、連載形式でお伝えしていきたいと思います。
第7回目「帯状疱疹予防ワクチン」
帯状疱疹とは
帯状疱疹は、多くのお子さんがかかる「水痘」が原因で起こります。いわゆる水ぼうそうです。2014年10月1日からは水痘ワクチンが定期接種化されたため、自然に水痘にかかるお子さんはずいぶん少なくなりました。
水痘が治る、あるいは水痘ワクチンを済ませたあと、その人は生涯にわたり体の中に水痘・帯状疱疹ウイルスを持つことになります。加齢やストレス、一時的な免疫の低下などによって、体内に潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルスが再び体表面に出てくるのが帯状疱疹です。体の左右どちらか一方に、チクチクと刺すような痛みとともに、水疱(水ぶくれ)と発赤が帯(おび)状にあらわれます。水疱は破れて最終的にかさぶたになり治ります。80歳までに3人に1人が発症するといわれています。
帯状疱疹を発症中は、まだ水痘ワクチンを接種していない赤ちゃんやお子さんに接触してはいけません。水ぼうそうを発症させてしまいます。すべての水疱がかさぶたになり、医師の許可が下りるまでは、原則外出禁止です
恐い合併症や後遺症
体にできた水疱は破れて最終的にかさぶたになり治りますが、後遺症として約2割に「帯状疱疹後神経痛」というものが起こります。
衣類がこすれただけでズキズキと痛む、夜も眠れないほど焼けるように痛む、などの症状が3ヶ月以上から数年にわたり続き、ずっと改善されないこともあります。
他にも、目や耳に帯状疱疹ができると、めまいや耳鳴りを合併することがあります。また帯状疱疹が重症化すると、視力低下や失明、顔面神経麻痺などの重い後遺症が残ることもあります。
予防法
欧米では以前から行われていたのですが、日本でも50歳から、水痘・帯状疱疹ウイルスに対するワクチンを接種することが可能になりました。予防のワクチンには2種類あり、
①水痘ワクチン:生ワクチン。1回接種。皮下注。予防率50%。副反応ほとんどなし。
②乾燥組み換え帯状疱疹ワクチン(商品名シングリックスⓇ):不活化ワクチン。2回接種(2ヶ月空けて接種)。筋注。予防率は50歳以上で97%、70歳以上で90%と高い。
シングリックスⓇは体内で強い免疫を作るようにできているため、70%に局所の痛み、30%に腫れ、倦怠感、頭痛などが現れます。
価格は、水痘ワクチンが1回7,000円、帯状疱疹予防ワクチンが1回20,000円です。
両者とも作用持続期間は10年程度(水痘ワクチンでは3~11年という報告もあり要注意です)と言われていますので、10年をめどに再接種すれば良いでしょう。
50歳過ぎたら是非接種を!
帯状疱疹にかかっても、抗ウイルス剤の内服で治療はできます。また神経痛や眼症状などの合併症を防ぐ治療薬もあることはあります。しかし、後遺症、特に、神経痛が残ると、この痛みは痛み止めでも完全に止めることができないため、生活の質が著しく低下してしまいます。治療法がないのなら、積極的に予防するしかありません。50歳を過ぎたら、是非検討していただきたいワクチンです。
私は、医師として長らく水痘のお子さんを診察してきましたので、普通の方よりは水痘に対する免疫があると思いますが、50歳過ぎに、まずは水痘ワクチンの接種をしました。水痘ワクチンの定期化により、自然に水痘にかかるお子さんが激減すると、水痘のお子さんと接触することも減るため、粘液は落ちていきます。米国でも、子どもの水痘ワクチンの定期化導入のあとからシニアや若い人にも帯状疱疹が増えてきていることが報告されています。私も、四捨五入で60歳に近くなってきたら、老後に備えて帯状疱疹ワクチンの接種を予定しています。年老いた体に24時間365日続く痛みというのは、心身にとって大きなダメージとなります。50歳以上であれば年齢に上限はなく、過去に帯状疱疹にかかったことのある方も一定期間を過ぎれば接種できます。(帯状疱疹は2回目、3回目というのが十分ありえますので、接種をご提案しています。)
このように、個人の年齢や帯状疱疹の既往歴などによっていろいろな接種の方法がありますので、くわしくは、医師にご相談ください。
(2022年4月9日 八木由奈)
子どもだけじゃない!大人が受けておきたいワクチン(第6回目)
DT(二種混合)ワクチンを接種した小6のお子さんの保護者の方へ
―そのあとにも是非受けてほしいワクチンがあります―
お子さんが小6になり、無事二種混合ワクチン(DTワクチン)を接種。「ああうちの子の予防接種もこれでやっと終わりね。」とほっとひと安心される保護者も方も多いでしょう。
でもそのあとにも、忘れないで受けてほしいワクチンがあることをご存じでしょうか?
忘れないで受けてほしいでワクチンって?
皆さんは「ヒトパピローマウイルスワクチン(HPVワクチン)」というワクチンをご存じでしょうか?
HPVワクチンは定期接種ですので、小学校6年生~高校1年生相当の女子は公費(無料)で接種できます。がん予防ワクチンの一種ですので、忘れずに是非受けていただきたいワクチンなのです。
HPVワクチンとは、子宮頸がん、肛門がん、陰茎がん、中咽頭がん、尖圭コンジローマ(生殖器のいぼ)の原因となるヒトパピローマウイルス感染を予防するワクチンです。
ヒトパピローマウイルスはごくありふれたウイルスで、生涯に約85%の人が感染するといわれています1)。
HPV感染の大半は無症状で、自然に消滅しますが、持続的な感染を起こすと、子宮頸がんをはじめとした生殖器のがんを引き起こします2)。
10代の女の子がHPVワクチンを接種すると、これらの疾病を88%減少させるといわれています1)。
先進国では男性への接種も当たり前に行われていますが、日本では、2020年12月から男性にも接種できるようになりました。男性は任意接種です。ガーダシル(4価ヒトパピローマウイルスワクチン)1回15,200円です。
HPVワクチンと積極的な接種勧奨の中止について
このワクチンは小学校6年の女子から定期接種できるワクチンなのですが、厚労省により積極的な接種の勧奨(接種をお勧めすること)が中止されていました。そのため、ワクチンの存在を知らず、打ちそびれた方が大勢出てしまいました。ですが、2021年11月26日に差し控えの状態が終了となり、接種が再び勧められるようになりました。
HPVワクチンにおいては接種開始後から打った場所以外の疼痛や記憶障害などの副反応に似た症状が認められました。そのため、このような現象について適切な情報提供ができるまでの間は、積極的な勧奨を一時的に差し控えるべきとされました。
こうして厚労省が接触的な接種勧奨を控えた期間に、我が国において若い女性の子宮頸がんは増加し、治療による子宮摘除が約30万例、死亡者は約1000例認められました。ワクチンが勧奨されていれば救えたかもしれない貴重な子宮や命がなくなってしまいました。
その後、いくつもの研究が重ねられ、当初見られていた体の疼痛や記憶障害などとワクチンに医学的な因果関係が認められず、安全性について特段の懸念が認められないことが確認され、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ると認められました。
こうした専門家の意見を踏まえ、令和3年11月26日に差し控えの状態を終了させることとなりました。
HPVワクチンについてより詳しい情報をご希望の方は、厚労省のページ「ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がんとHPVワクチン」のページをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html
参考文献
1)CDC Reasons to get HPV Vaccine:https://www.cdc.gov/hpv/parents/vaccine/six-reasons.html(accessed Sep 20,2021)
2)CDC The Pinkbook -Epidemiology of Vaccine Preventable Diseases- HPV:https://www.cdc.gov/vaccines/pubs/pinkbook/hpv.html(accessed Sep 20,2021)
3)厚生労働省.HPVワクチンに関するQ&A:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/hpv_qa.html#Q3-2
(2022年1月9日アクセス)
子どもだけじゃない!大人が受けておきたいワクチン(第5回目)
現在、新型コロナウイルスのワクチンに注目が集まっていますが、実は、それ以外にも大人が受けておきたいワクチンというのがあります。
子どもさんだけでなく、海外渡航や新入学・入寮、また災害ボランティアへ行く方などに、是非ご案内したいワクチンがあります。これらワクチンについて、連載形式でお伝えしていきたいと思います。
第5回目「世界の基準!肝臓がんを予防するB型肝炎ワクチン」
B型肝炎を予防することは、肝臓がんを予防することにもなります(詳しく知りたい方は文末に紹介する日本肝臓学会のサイトをご覧ください)。このワクチンはがん予防ワクチンのひとつで、命に関わるとても重要なワクチンです。
B型肝炎は、母子感染や水平感染(父子感染、保育園などでの感染など)だけでなく、性交渉や、体液、血液を介して(針刺し事故など)など知らない間にかかることも多いため、WHO(世界保健機関)では、世界中の子どもたちに対して、生まれたらすぐに国の定期接種として国民全員が接種する方法『ユニバーサルワクチネーション』を指示しています。
しかし我が国では赤ちゃんへの定期接種導入が遅れに遅れていました。日本がワクチン後進国と言われていたゆえんです。そして、やっと2016年(平成28年)4月以降に生まれた赤ちゃんに対して定期接種が行われるようになりました。通常、1歳までに3回の接種を行います。
日本は、B型肝炎ウイルスの「中蔓延(まんえん)国」といわれており、国内にいても、かかる可能性があります。2016年より以前に生まれたお子さんにはB型肝炎に対する抗体がありません。是非、接種してあげてほしいと思います。
※任意接種になります。(ビームゲン)4,200円(ヘプタバックス)4,900円を計3回接種。
成人においても、今の30代~50代の人はほとんどがB型肝炎にかかったことがなく、抗体を持っていません。これを機会にご家族全員で接種されることをご提案します。
B型肝炎は、母子感染予防のため、キャリアのお母さんから生まれた赤ちゃんには公費で、また血液事故の可能性の高い、医療、救急関係者には就職時に任意接種が行われています。
世界に習って、ワクチンを受けていないすべての人は接種を強くご提案します。
さらに詳しく知りたい方は、日本肝臓病学会の「B型肝炎・世界の基準のユニバーサルワクチネーションを知ろう!」をご覧ください。
(2021年9月20日 八木由奈)
子どもだけじゃない!大人が受けておきたいワクチン(第4回目)
現在、新型コロナウイルスのワクチンに注目が集まっていますが、実は、それ以外にも大人が受けておきたいワクチンというのがあります。
子どもさんだけでなく、海外渡航や新入学・入寮、また災害ボランティアへ行く方や園芸を趣味とされている方、シニアの方に、ご案内したいワクチンがあります。これらワクチンについて、連載形式でお伝えしていきたいと思います。
第4回目「B型肝炎ワクチン」
B型肝炎とは、B型肝炎ウイルスの感染によって起こります。かかると、一過性の急性肝炎を起こす場合と、持続性にウイルスを抱えてしまう慢性肝炎を起こす場合があります。感染経路は血液、汗、唾液、涙などの体液で、垂直感染(出産時に母から赤ちゃんに感染する)と水平感染(性行為や針刺し事故、コンタクトスポーツなどで感染する)があります。
慢性肝炎を起こした場合、10~30%に肝硬変から肝臓がんを起こしてしまいます。肝臓がんを予防するための大事なワクチンですので、WHOでは子どもだけなくすべての年齢の人で勧められているワクチン(ユニバーサルワクチン)です。
成人で、特に接種が推奨されているのは、以下の方たちです。
・医療関係者
・医療以外で血液や血液製剤にさらされる可能性のある方
(警察官・消防士・自衛官・保育士・教師・災害救助活動をする予定の方など)
・B型肝炎の方と性的パートナーの方や同居家族
・複数の性的パートナーをもつ方
・頻繁に輸血や血液製剤を投与する必要がある方、透析患者・臓器移植を受けた方
・海外渡航・留学する方
上記以外でも、我が国では、保育園での集団感染やコンタクトスポーツ(激しい体の接触をともなうスポーツ:相撲・ラグビー・ボクシング・サッカー、レスリング、柔道、空手、ハンドボール、バスケットボールなど)での感染が報告されており、国内であっても、誰でも、いつ感染してもおかしくない感染症といえます。
世界中ではすべての年齢の人に接種されていますが、日本で定期接種化されたのは2016年のことです。つまり、2016年より前に生まれた人はB型肝炎に対する免疫を持っていない人がほとんどなのです。
きょうだいでも下のお子さんは定期接種でB型肝炎を接種しているけれど、上のお子さんは接種していない場合は、この際、上のお子さんと一緒にご両親も接種することをご提案します。
5歳以上の年齢の方は任意接種となり、スケジュールは「初回・1ヶ月後・6ヶ月後」の3回接種です。
1回の料金は、ビームゲン4,200円、ヘプタバックス4,900円です。10歳未満は0.25ml、10歳以上は0.5mlを皮下注射で接種します。局所の腫れ以外の大きな副作用はほぼ稀です。成人の場合、20~30%の方が3回の接種では十分な抗体ができないことがあるので、必要に応じて、3回接種後に抗体検査を行い、抗体ができているかチェックします。十分な抗体ができた場合の免疫力は、20年以上持続するといわれています。
(2021年8月20日 八木由奈)
子どもだけじゃない!大人が受けておきたいワクチン(第3回目)
子どもだけじゃない!大人が受けておきたいワクチン(第3回目)
現在、新型コロナウイルスのワクチンに注目が集まっていますが、実は、それ以外にも大人が受けておきたいワクチンというのがあります。
我々小児科の医師は日々、多くのワクチンを接種しており、ワクチンの専門家を自負しています。子どもさんだけでなく、海外渡航や新入学・入寮、また災害ボランティアへ行く方や園芸を趣味とされている方、シニアの方に、ご案内したいワクチンがあります。これらワクチンについて、連載形式でお伝えしていきたいと思います。
第3回目「破傷風単独ワクチン(破傷風トキソイド)」
破傷風ワクチン(破傷風トキソイド)は、ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオを予防する三種混合ワクチンに含まれています。
三種混合ワクチンは1968年(昭和43年)から全国で定期接種として接種されるようになりました。現在は、不活化ポリオワクチンを加えた四種混合ワクチンが定期予防接種に導入されており、我が国では生後3ヶ月になったら接種を開始し、合計4回の接種をします。
破傷風は、日本中の土の中に存在しており、国内どこにいてもかかる可能性のある、死亡率の高い恐ろしい感染症です。土壌中の破傷風菌が傷口から体内に入ることによって感染します。破傷風菌に感染すると、神経麻痺、筋肉の激しいけいれんや呼吸困難などをおこし死に至ります。有効な治療薬はありません。ワクチン接種が唯一の予防法になります。
50代以上の人は、ほとんどが三種混合ワクチンを受けていません。そのため毎年100名以上の人が破傷風にかかっています。成人の方で、趣味で土いじり(ガーデニングや園芸、農園)をされる人、モトクロスやロードバイクなど、土の上で怪我をする可能性の高いスポーツをする人、また災害ボランティアに行く予定の人、後進国へボランティア活動に行く予定の人、国内や海外で冒険旅行する予定の人などは、特に接種が勧められます。1968年以前に生まれた人は、3回+追加1回の合計4回の接種を行います。1968年以後に生まれた人は1回の追加接種を行います。どちらの場合も、免疫力を維持するため、10年ごとの追加接種が推奨されています。すべて任意接種(1回2,400円)です。皮下注射で接種します。局所の腫れ以外の大きな副作用はほぼ稀です。
(2021年7月22日 八木由奈)
子どもだけじゃない!大人が受けておきたいワクチン(第2回目)
子どもだけじゃない!大人が受けておきたいワクチン(第2回目)
現在、新型コロナウイルスのワクチンに注目が集まっていますが、実は、それ以外にも大人が受けておきたいワクチンというのがあります。
我々小児科の医師は日々、多くのワクチンを接種しており、ワクチンの専門家を自負しています。子どもさんだけでなく、海外渡航や新入学・入寮、また災害ボランティアへ行く方や園芸を趣味とされている方、シニアの方に、ご案内したいワクチンがあります。これらワクチンについて、連載形式でお伝えしていきたいと思います。
第2回目「不活化ポリオワクチン(IPV)」
ポリオとは、ポリオウイルスによっておこる感染症のことです。ほとんどは自然治癒しますが、一部の人に手や足の麻痺(まひ)があらわれます。この麻痺は一生治ることはありません。便を介して人から人に感染し、我が国でも1970年代までは流行を繰り返していましたが、経口生ワクチン(OPV)が導入されるとその数は激減。1980年の1例を最後に、野生のポリオウイルスによる麻痺患者は発生していません。
さて、生ポリオワクチンは劇的に我が国の患者数を減らしましたが、いっぽうで、「ポリオワクチン関連麻痺」という、生ワクチン中のポリオウイルスによる麻痺患者の発生が問題視されるようになりました。そこで、2012年9月1日から生ポリオワクチンの定期予防接種は中止され、不活化ポリオワクチン(IPV)の定期接種が導入されました。
海外では、依然としてポリオが流行している地域があり(パキスタン・アフガニスタン・ナイジェリアなど)海外からポリオウイルスが国内に入ってくる可能性はなくなったわけではありません。
特に、オリンピックや国際大会などの国際的マスギャザリング(一定期間、限定された地域において、同一目的で世界中から多人数が集合すること)はそのリスクが高くなります。
小さいころに生ポリオワクチンを2回受けている方は十分な免疫を持っていますが、昭和50年~52年生まれの方はその時使用されていた生ワクチンが不適切だったことにより、十分な免疫がついていない場合があることが知られています。折しも今年の夏に東京オリンピックが開催されます。該当される方は、この機会に不活化ポリオワクチンを1回追加接種しておくのが良いです。
また、不活化ポリオワクチンは、4~5歳で免疫力が低下してきてしまうため、欧米諸国では就学前ごろにもう1回、計5回の接種が標準とされています。しかし現在、日本では4回しか接種の機会がありません。したがって、日本小児科学会では、就学前の年長さんに1回追加接種することを勧奨しています。国内で4回しか接種をしていない方は、将来的に海外の大学に留学する際などに、5回目の接種を要求されることがほとんどです。
いずれも任意接種になります(不活化ポリオワクチン 1回7,800円)。該当する方は、オリンピック開催を機会に、一度接種を検討してみてくださいね。
(2021年7月2日 八木由奈)
子どもだけじゃない!大人が受けておきたいワクチン(第1回目)
~この春、新大学生・専門学校生・就職をされた方へワクチンのご案内~
現在、新型コロナウイルスのワクチンに注目が集まっていますが、実は、それ以外にも大人が受けておきたいワクチンというのがあります。
我々小児科の医師は日々、多くのワクチンを接種しており、ワクチンの専門家を自負しています。子どもさんだけでなく、海外渡航や新入学・入寮、また災害ボランティアへ行く方や園芸を趣味とされている方、シニアの方に、ご案内したいワクチンがあります。これらのワクチンについて、連載形式でお伝えしていきたいと思います。
第1回目「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」
このワクチンは子宮頸がん・肛門がん・陰茎がん・尖圭コンジローマの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するワクチンです。世界100か国以上で行われており、イギリスやオーストラリアでは接種率は80%以上です。我が国でも2013年4月1日から定期予防接種として2価(サーバリックス®)と4価(ガーダシル®)のワクチンが導入されました。しかしその後の国による「定期接種の積極的接種の差し控え」により、現在の接種率はわずか1%未満にとどまっています。そのため、我が国では年間約1万人が子宮頸がんに罹患し、約2,800人が死亡しています。罹患されるのは比較的若い方(お母さん世代)が多く、赤ちゃんの産めないからだになってしまったり、亡くなった方の中にはワクチンで防げたケースもあったはずと考えると、本当に悲しいです。
本来、定期接種なので、小学校6年生~高校1年生の女子は無料で接種できますが、上記より、現在20代の女性のほとんどは接種が済んでいない状態です。
また2020年12月、4価HPVワクチン(ガーダシル®)が男性へ適応拡大されました。ガーダシル®はすでに世界131の国と地域で承認されており、そのうち男性にも適応されているのは102の国と地域。ガーダシルの接種により、男性は肛門がんや陰茎がん、尖圭コンジローマなどの予防が期待できます。
2021年2月に新しく9価HPVワクチン(シルガード9®)がわが国でも接種可能となりました。シルガード9は、従来のガーダシル®の4つのHPV型にさらに5つが加わり、より幅広い疾患の予防が期待できます。すでに4価のワクチン(ガーダシル®)を接種された方でも、追加で接種することも可能です。現在は男性には適応はなく、9歳以上の女性のみが適応となっています。
成人の方はすべて任意接種(当院価格:ガーダシル®15,200円/回、シルガード9®28,000円/回、標準的にはどちらも3回接種。すでにガーダシルを接種した方のシルガード9の追加接種については医師までお問い合わせください。)となりますが、なるべく受けておきたいワクチンのひとつです。
★このワクチンについてより詳しく知りたい方は、日本産婦人科学会のホームページ
「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」をご覧ください。
(2021年5月31日 八木由奈)